実践「心の教育」(11)
心の授業としてのストレスマネジメント教育(2)
− 身体からのつぶやきとペア・リラクセーション −
心の教育総合センター・主任研究員
兵庫教育大学教授
冨永良喜
1 身体からのつぶやき
「むかつく」は、「胸がむかむかする」といった身体からの言葉である。しかし、子どもたちは、自分の身体を実感した言葉を発しているのだろうか。いや、言葉に発するよりも、あまりに簡単に、行動化してしまうのに驚かされる。
自分の身体からわき上がる「怒りや憎しみ」とのつきあい方を学ぶ経験があまりに乏しい。原因は、ファミコンなどの仮想現実、少子化、大人からの共感的メッセージの欠乏などが考えられる。総合的な学習で、体験を重視しようというのは、その補完であろう。しかし、自分の本音に耳を傾け、自分を見つめることなくして、本当の体験−「自分が身をもって経験すること」−にはならない。
2 身体からのつぶやきを聴く
ある中学校の学校保健委員会で、呼吸法や肩のリラクセーションを行った。ある生徒は、「自分をみつめることはとても大切だと思った」と感想に書いた。他の生徒は、「今までイライラしたら人や物にあたってきたけど、それはまちがいだとわかった。こんなこと(呼吸法や肩のリラクセーション)で、イライラがなくなるなんて思ってもみなかった」と書いた。
自分の身体からのつぶやきに耳を傾ける。そして、自分の本音や不満をきちんと聴く。そういった時間が、今、教育の中で求められている。
3 セルフ・リラクセーション
ストレスマネジメント技法の有力な方法のひとつとしてリラクセーションがある。リラクセーション技法には、音楽をもちいた暗示法、自律訓練法、漸進性弛緩法、呼吸法などがある。そのいずれも、ひとりでやるセルフ・リラクセーションである。ストレスに立ち向かい対処するのであるから、ひとりでやるリラクセーションが基本となることは当然である。「いつでも、どこでも、ひとりでやれるリラックス法」を身につけることこそ大切なことであろう。西欧社会で行われているストレスマネジメント教育は、まさに、そういった技法が用いられている。
4 ペア・リラクセーション
ところが、子どもたちの大きなストレス(ストレッサー)は、友だちや家族との人間関係である。自己の成長のためには、他者のあたたかいかかわりは不可欠であるという実感の育成が求められる。そこで有力な技法のひとつが、動作法を応用した子ども同士で実践するペア・リラクセーションであろう。
リラックスを体験する人と援助する人の2人一組になる。体験する人は、椅子に座る。援助する人は後ろに立つ。援助する人は、教師の教示に続けて次のように言う。「まっすぐな姿勢で座りましょう。手は横にぶらんとしてね。(あなたの肩に)しっかりやさしく(私の)手を置きます。肩の感じがはっきりと感じられます。肩だけ力をいれて、耳にくっつくぐらいゆっくりと上げてください。もっと上がるかな。すごい。他のところに思わず力が入っていないか点検しましょう。背中、腰、肘、脚、顔はスマイルだよ。はい。ストンと肩の力を抜いて。まだ、姿勢は、まっすぐだよ。もうひとつ気持ちを肩に向けて。気づかずにまだ力が入っているということがあります。手を離すと、さわやかな感じを感じることができます。」また、教師は、「手を置く人の気持ちが大切だよ。生まれたばかりの赤ん坊をしっかり抱くような気持ちで」と手に心を込めるように求める。
南敦浩教諭が小学6年生に実践した報告では、「しんどいなと思っても、これをやるとジーンとして、すごく楽になる」「やってみて人とふれあったら心が広くなったり温もりを感じた」「これをやった夜はいつも親にしてあげている」といった感想を書いていた。
いま、学校や家庭の中で、他者のあたたかいかかわりを実感する機会がどれほどあるだろうか。クラスでペア・リラクセーションを実践してみると、他者の肩に「しっかりやさしく手を置く」ということ自体が難しい。首をしめてふざける子、こそぐる子、肩に手を置かれて「キャーこそばい」と叫ぶ子がいる。そういったふざけを、教師が力によって押さえつけるのではなく、子ども自らが、相手の身になって、真剣に援助できるようになるように、導くのが教師の役割であり、腕の見せ所でもある。最初はふざけていた子が、少しの真剣さでもって相手にかかわっていく姿があれば、授業は成功である。
合唱コンクール、スポーツ大会、学力テストといった行事にあわせて、ペア・リラクセーションを実践する。子どもが自分の身体からのつぶやきを聴き、そのつぶやきを自らなだめ、人の温かさを実感できる機会となる。