実践「心の教育」(10)
 
    心の授業としてのストレスマネジメント教育(1)
 
 
                        心の教育総合センター・主任研究員
                                兵庫教育大学教授
                                    冨永良喜
 
1 ストレスマネジメント教育とは
 ストレスマネジメント教育とは、ストレスに対する自己コントロール能力を育成するための教育援助の理論と実践である。ストレッサーとは、嫌悪的あるいは脅威的であると感じる刺激や出来事であり、ストレス反応とはストレッサーによって引き起こされる心身の変化であり、ストレス対処とはそれらを乗りこえたり対処しようとする試みである。子どもの一年間の生活をみると、試験や体育祭や音楽発表会があり、友だちとの人間関係ではいじめやケンカがある。また、突然の悲しみやショックに出合うことはまれではあるが、人生の中では必ずある。
2 ストレスマネジメント授業の実際
 三田市の酒井俊子教諭が最近、小学5年生に実施した授業を紹介しよう。「人間にはさまざまな感情があるね。喜怒哀楽というでしょ。喜楽はプラスの感情だけど、怒哀はマイナスの感情だね。でも、人間はマイナスの感情を和らげる力をもっているんだよ。怒や哀を代表することばはなにかな?」子どもたちはすぐに『ストレス』と言った。
 ストレスは子どもたちにとって日常語になっていると思った。「では、どんな時ストレスを感じる?」と尋ねた。子どもたちは『怒られたとき』『勉強、塾』『ラストバッターになったとき』と発言した。
 つぎに、「ストレスを感じたとき心と体はどうなる?」と尋ねると、『イライラ』『ドキドキ』『体に力が入る』『頭痛』などどんどん発言がなされて、普段の教科授業とは違った雰囲気であった。「そんなときどんな工夫や対処をしている?」というストレス対処の質問には、『やつあたり』『ものをこわす』などの発言が相次いだが、『それじゃ、怒られて、ますますストレスがたまる』との発言から、『音楽、スポーツ、読書、入浴』などが出された。 ここで、ある詩(「レオバスカリアのパラダイスゆき9番バス」)を朗読した。どんなにつらくても自分を大切にするんだよというメッセージが込められていた。みんな真剣に聞いていた。 そして、肩のリラクセーションを行った。「まっすぐな姿勢で座りましょう。頭のからお尻まで軸をつくって。いやでなかったら目を閉じてみましょう。肩をゆっくり耳にくっつくぐらい上げていきます。もっとあがるかなって自分を励まして。肘、背中、足に思わす力が入ってないか点検します。顔はスマイルだよ。そして、ゆっくりと肩の力をぬいていきます。全部、抜いたと思っても、もう少し、肩に気持ちを向けてみます。はい、まっすぐな姿勢から楽な姿勢にしてね」と、それを3回繰り返し行い、3回目にはストンと一気に肩の力を抜くように求めた。子どもたちは、「肩のリラックスをした後は、気持ちがスッキリした」、「こういう方法があるとわかってよあった」、「すごくすっきりして気持ちがいい」、「放課後も気持ちよく過ごせた」といった感想を書いた。
3 授業で送りたい心のメッセージ
 ストレスマネジメント授業で、教師が子どもたちに送りたい心のメッセージは、「いやなことをされたら怒りの感情がわくのは自然だよ。つらいことに出合ったら悲しくなるのは自然だよ。でも、その怒りや悲しみを、無理に閉じこめたり、自分や人を傷つけて発散するのはまちがいだよ。自分を傷つけない、人を傷つけない怒りや悲しみの表現を学ぼう」である。
 人を傷つけない怒りや悲しみの表現には、涙を流す、人に話す、描くなどがある。肩のリラクセーションや呼吸法も、力をぬいたり、吐く息とともに、つらいこと嫌なことが身体の外に出ていくイメージを浮かべる。
 呼吸法やイメージ法は、似非宗教的と導入することをためらう教師もいるが、それは違う。さまざまな方法を子どもに提案し、なにを選ぶかは、子どもに任せばよい。「今日は、肩に力をいれてストンと力をぬくリラックス法を学んだね。ほかにも、呼吸法やイメージ法など色々あるんだけど、これはいいなーって、自分で選んでいくのが大切だよ」と伝える。
 また、「ストレスは人生のスパイスだよ。ストレスを引き受けそれを乗りこえていくことに人生の喜びがあるんだよ。ストレスは発散するのではなく、ストレスを芸術や学問やスポーツで表現することが大切だよ」というメッセージも送りたい。
4 実証的にすすめたい心の授業
 このような実践が、子どもの心をどのように育むのかを実証的にすすめたい。心の教育総合センター(Tel.0795−42−6556)では、ストレス反応調査票・ストレス対処レパートリー調査票やさまざまな指導案を用意している。