学校の危機管理 「兵庫教育」2002年3月号より
学校における心のケア体制と危機事態の対応
心の教育総合センター・主任研究員
冨永良喜
1危機後の反応と対処の共通認識
危機は、潜在的な問題を噴出させる。心身反応だけでなく、反社会的な問題行動の多発も予測される。出来事が教師の不祥事であれば、人間不信を生み、人間不信は、問題行動を生む。
危機は、ひとりでは乗り越えられない。教師や保護者が一致団結して、危機に立ち向かわなければならない。
危機後の問題行動は、茶髪、携帯電話所持、服装の乱れにも現れる。教師は躍起となり、それらの問題行動へ対処しようとする。しかし、保護者は、茶髪の何が悪いのか、携帯電話は時代の流れ、と教師へ反発を強める。このように大人の意識がばらばらでは、危機には立ち向かえない。
では、どのように対処すればいいのか。まず、「人を傷つけることは許されない」という基準を明確にすることである。教師の体罰や不祥事は、許されない行為であることを心から認める。これに対して、茶髪は、人を傷つける行為ではない。荒れた中学校を建て直した安川禎亮は、まず、自転車通学でのヘルメット着用の厳守から取り組んだ。それは命にかかわることだから、保護者も納得した。また、「陰で悪口をいうこと」、「人を無視すること」も、人を傷つけることだから許されないとの意識を培う。
2アンケート調査の実施
まずは、アンケート調査を行う。「ねむれない」「勉強に集中できない」などのストレス反応のアンケート調査である。また、「いやなあだなで呼ばれた」「物を壊された」などのいじめ被害と、「無視した」「お金をとった」などのいじめ加害のアンケート調査も行いたい。「学校に信頼できる先生がいる」「クラスが楽しい」などの学校生活意識調査も実施しておくとよい。
いじめ被害・加害調査の結果は、子どもに保護者に、『この学年には、「無視をされている」と思っている人が、○○%います』とフィードバックする。
ストレス反応調査の結果は、教育相談で活用する。『「ねむれない」って答えているけど、気がかりなことでもあるのかな』と尋ねる。もちろん、深刻な場合は、スクールカウンセラーを活用する。学期ごとに調査し、その変化をみる。では、だれが中心となって、この活動を進めるのか。
3心のケア体制の充実を図る
校務分掌に、教育相談担当を位置づけてほしい。心のケア専門委員会を設置し、教務主任・生徒指導・教育相談担当・養護教諭が、実務責任者となる。兵庫県義務教育課の調査で、教育相談担当を置いた中学校が、置かない中学校に比べて、不登校の増加率が少ないことを報告している。もちろん、管理職が組織全体の動向を把握し、指導力を発揮することはいうまでもない。管理職に、「時間が解決してくれる」という意識が少しでもあれば、それは間違いである。忌まわしい事件を、なかったことにしたいのは、危機後の心身反応の中核であるとの知識が必要だ。 次に、年間の取り組みを計画する。道徳や総合的学習に、心の授業(ストレスマネジメント教育やアサーション訓練、構成的グループエンカウンターなど)を企画する。
そのためにも外部の力を導入してほしい。兵庫県心の教育総合センターは設立されて5年が経過し、学校での事件後への対応を、組織的にバックアップする体制が整備されている。心の教育総合センターには、アンケートや心の授業の指導案が用意されている。学校で危機を抱え込まないで、心の教育総合センターを是非活用してほしい。
4危機への対応と日頃の心のケア
事件が起きていない学校も、いじめ防止教育には全力をあげてほしい。いじめのない学校はない。そして、過去の重大な少年事件の背後には、ほとんどいじめ加害が潜んでいる。ただし、いじめの行為は許されないとのメッセージだけでは不十分である。人と人の望ましいかかわりを体験する必要がある。いじめ防止授業では、いじめとけんかの違い、怒りの感情が湧いたときどうすればいいかを考える。つぎに、自分を傷つけないで、他者を傷つけないで、落ち着いて、怒りの感情表現の体験をする。そして、感想を出し合い、体験に伴う感情を分かち合う。
トラウマ(深い心の傷)に圧倒されるのではなく、教育の力で立ち向かいたい。「日頃の心のケアの充実こそが、危機事態での望ましい対処につながる」ことは、阪神淡路大震災の教訓である。
ホームページ:ストレスマネジメントとトラウマ
http://www.edu.hyogo-u.ac.jp/yotomi/index.htm