「小遣い帳」の系統的指導 
井上 雅彦
金銭管理技能はその技能を獲得することも重要ですが、それだけではなく「継続性」と「正確性」が最も重要です。このため長期間にわたってスモール・ステップで進めていくことが大切です。実際に適用した事例を紹介しましょう。 
対象生徒 小学校の情緒障害児学級4年生の女児(自閉症)、金銭のカウンティング技能は既に獲得していた。
ステップ1
 まずは、財布を自分で管理することから始めます。管理といってもさほど難しく考えることではありません。最初に子どもの財布を選びます。選ぶポイントは取りだし口があけやすく、小銭の取り出しやすいかという点です。次に、財布をしまう場所を決めます。あくまで自分で管理するわけですから自分の部屋の机の引き出しなど自分以外の人が触れない場所を決めてあげる必要があります。
 カレンダーを目立つところに張り、お小遣いをあげる日に印をつけます。わたすときに”自分で財布を持ってくる”こと、お小遣いを受け取ったら”自分で財布をしまう”ことがこの段階での目標行動です。また、一緒に買い物に行く場合にも必ず”自分で財布を持ってきて、使った後は自分でしまう”ようにさせます。
 この時期、お金を使うことを覚えた子どもはお金に興味を示すようになります。自分の鞄や財布がわかっているとしてもお金は一見どれも同じです。ましてや名前が書いてあるわけではありません。このためお金に関する所有の概念の初期獲得においては、そのお金がだれの財布に入っているかという点が重要なポイントになります。したがって、家に不用意にお金をおいておくことや、親御さんの財布から直接子どもの財布へお金をいれること等については十分に配慮する必要があります。
ステップ2
 最初から金銭の出入など一度に様々な要素を記録するよう教えることも可能ですが、「継続性」という側面からは、簡単な記入方法から初め、指示されなくても毎日記入することを重視した方が確実なようです。ノートを用意し、下の表1のように日付と曜日、それと財布の中のお金を数えて記入するようにします。最初のうちはできれば毎日習慣づくまで続けるようにします。この時期に最終的には他者から促されなくても毎日自発的につけれるようにしておきます。スケジュール表を使っている子どもさんはその中に、「小遣い帳をつける」という項目をいれてもよいでしょう。スケジュール表を用いない場合は、歯磨きの後など既に習慣化されている行動の前か後に促すようにするとよいでしょう。表の対象生徒の場合は3ヶ月程度続けました。
 表1 
ステップ3
 ステップ2の段階で定着してきたら、つまり大人が小遣い帳をつけるよう促さなくても自発的につけれるようになったら、次に項目を増やしていきます。「先の記入形式にこだわるのではないか」という心配もありますが、定着してきた段階で、少し先の頁に以下の表のような記入欄を設け、「ここからはこうつけようね」というように予測性を持たせるようにすればうまくいきます。ステップ2と比較して真ん中の欄に「買ったもの」が含まれています。対象生徒の場合は、買っていない日も記入するようにしました。
表2
ステップ4
ステップ4では表3のように「買ったものの『値段』」が新たに項目として加わります。子どもさんは、この段階において「物の代替の値段」とともに「使うことによってお金が減る」ということを体験的に学習することになります。
表4
ステップ5
 ステップ5は少し複雑です。「もらったお金」「計算」「確認」が新たに追加されます。「もらったお金」は、保護者などからお金をもらった場合に金額を記入するよう指導します。また「項目」には「だれからもらったか」を記入します。「計算」は前の日の「残りのお金」から「使ったお金」を引く式を記入し、電卓で計算し答えを書くように指導します。立式が困難な場合の指導方法としては、式を立てるときに「残りのお金」から「使ったお金」を引けるように、手がかりとして前日の「残りのお金」を赤の枠で囲み当日の「使ったお金」を青枠で囲みます。そして「計算」欄に赤枠から青枠を引くように(= )手がかりを入れます。対象児の場合は、最終的にこれらの手がかりを取り去って(フェイディングアウト)も適切に記入できるようになりました。計算したら「残りのお金」の欄に金額を記入させます。また「確認」は、最終的に実際に残ったお金を数えさせ計算した金額とあっていたら○を記入するようにします。
表5
現在の状況
対象生徒は、本指導を終了して3年目になりますが、金銭管理スキルは現在も維持しています。年齢も上がり小遣いの額も変化がみられるようになってきました。最近の出来事として残金不足になった時、毎回3つずつ買っていたキャンディーを2個に我慢したりしたそうです。今後は、お金が余った場合にキャッシュカードを作って預金・引き出しすることに取り組もうとしています。(ver.1  2001.1)
 
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