発達障害心理臨床特講No7

 

2).注意欠陥多動性障害(ADHD)

(1)ADHD(ADHD:Attention deficit hyperactivity disorder)の定義

 1902年に初めて特定の病気と認められたが、1930年代から1950年代では、ADHD症状を有する子供達に脳障害が生じている証拠がないにも関わらず、微細脳機能障害(MBD)と定義されたり、1950年代後半になって、活動亢進(過度に活動的)がADHD症の定義に使用されたり、その定義に関してはいくつかの変遷があった。1970年代になって、ADHD症に注意欠陥が考慮され、1980年代以降は、注意欠陥や活動亢進がその定義として考慮されるようになり、現在では注意欠陥多動性障害(ADHD)または多動症候群と呼ばれるようになった[1]。ADHDは、DSM−W(米国精神医学会の定める「精神障害の分類と診断の手引、第4版」の中の、「注意欠陥および破壊的行動障害」に分類されている診断名で、日本においても、この診断基準が一般的に使われている。


      注意欠陥/多動障害の診断基準(DSM−W)

A .[1]か[2]のどちらかを満たすこと:

[1]以下の不注意の症状の内6つ(またはそれ以上)が少なくとも6カ月以上続いたことがあり、その程度は不適応的で、発達の水準に相応しないもの
【不注意】
(a)学業、仕事、またはその他の活動において、しばしば綿密に注意することができ   ない、または不注意な過ちをおかす
(b)課題または遊びの活動で、注意を持続させることがしばしば困難である
(c)直接話しかけられた時に、しばしば聞いていないように見える
(d)しばしば指示に従えず、学業、用事、または職場での義務をやり遂げることがで   きない(反抗的な行動または指示を理解できないためではなく)
(e)課題や活動を順序立てることがしばしば困難である
(f)(学業や宿題のような)精神的努力の持続を要する課題に従事することをしばし   ば避ける、嫌う、またはいやいや行う
(g)(例えば、おもちゃ、学校の宿題、鉛筆、本、道具など)課題や活動に必要なも   のをしばしばなくす
(h)しばしば外からの刺激によって容易に注意をそらされる
(i)しばしば毎日の活動を忘れてしまう

[2]以下の多動性−衝動性の症状の内6つ(またはそれ以上)が少なくとも6カ月以   上持続したことがあり、その程度は不適応的で、発達水準に相応しない
【多動性】
(a)しばしば手足をそわそわと動かし、または椅子の上でもじもじする
(b)しばしば教室や、その他、座っていることを要求される状況で席を離れる
(c)しばしば不適切な状況で、余計に走り回ったり、高い所へ登ったりする (青年   または成人では、落ち着かない感じの自覚のみに限られるかも知れない)
(d)しぱしば静かに遊んだり、余暇活動につくことが出来ない
(e)しばしば、じっとしていない、または、まるでエンジンで動かされるように行動   する
(f)しばしば、しゃべりすぎる

【衝動性】
(g)しばしば質問が終わる前に、だし抜けに答えてしまう
(h)しばしば順番を待つことが困難である
(i)しばしば他人を妨害し、邪魔をする(例えば、会話やゲームに干渉する )

B.多動性−衝動性または不注意の症状のいくつかが7歳未満に存在し、障害を引き起  こしている

C.これらの症状による障害が2つ以上の状況において(例えば、学校または仕事と、  家庭において)存在する

D.社会的、学業的または職業的機能において、臨床的に著しい障害が存在するという  明確な証拠が存在しなければならない

E.その症状は、広汎性発達障害、精神分裂症、またはその他の精神病性障害の経過中  にのみ起こるものではなく、他の精神疾患(例えば、気分障害、不安障害、解離性  障害、または人格障害)ではうまく説明されない

病型分類
(a)注意欠陥/多動性障害(混合):過去6カ月間、A[1]と A[2]の基準をと   もに満たしている場合
(b)注意欠陥/多動性障害(不注意優性型):過去6カ月間、基準A[1]を満たすが、   基準A[2]を満たさない場合
(c)注意欠陥/多動性障害(多動性−衝動性優勢型):過去6カ月間、基準A[2]を   満たすが、基準A[1]を満たさない場合

(2)学習障害との相違
 教育現場では、ADHDとLDをしばしば混同されることがある。ADHDを診断する上で問題となる一つの困難な現象は、ADHDが他の問題を伴っているということである。学習障害の他には、反抗挑戦性障害、トゥーレット症候群、行為障害、心配症や抑鬱症等があり、いずれも専門家による総合的診断が必要である。学習障害と合併している場合には前回の講義でも述べたように一人一人の実態を正確に把握し、教育課程の中で学習障害として取り扱うのが適切か否かを判断する必要がある。

 

(3)ADHDの原因

 原因論については未だ結論を得ていないが、劣悪な養育環境による心理的要因ではなく以下のような生物学的要因によるものとされている。

 最近の研究ではPET(positron emission tomography:陽電子放射断層写真撮影)スキャナーを使って脳の活動を観察することが行われている。つまり衝動を抑制し注意力をコントロールする脳の部位が消費するブドウ糖のレベルを計測するものである。ブドウ糖は脳の主要なエネルギー源であり、その消費量を計測することで脳の活動レベルが解るといわれている。結果、ADHDの人は、注意力をコントロールする部位のブドウ糖消費量が少なく、その部位の活動があまり活発でないこと、つまり脳のある部位の活動が低いことが不注意の原因である可能性が指摘された。次の段階として脳のこれらの部位が何故、活動が低いのかを研究することであるが、その点については現在様々な論議が行われている。

 最近の研究では、出産前における、鉛、たばこの副産物、アルコール摂取、出生後の食品着色料の摂取、栄養不良、殺虫剤特に甲状腺ホルモンに影響する工業用化学物質への低濃度曝露が関与する可能性が示唆されてきた。現在のところ、これら全ての要因が互いに関係し合うことと考えるのが妥当であると考えられる。

 

(4)ADHDの薬物治療
中枢刺激剤
リタリン(Ritalin: methylphenidate hydrochloride, 塩酸メチルフェニデート)

 第一選択薬である。学習効果をあげる目的で、朝1回投与ないし朝と昼の2 回投与 が効果的である。その他 デクストロアンフェタミン(デキセドリン又はデクストロスタット):dextroamphetamine(Dexedrine or Dxtrostat)、ペモリン(サイラート):pemoline(Cylert)等がある。多くの人にとってこれらの薬は多動性を劇的に減少させ、注意力や仕事や学習の能力を著しく向上させることが明らかにされ米国では多くの人に投与されている。これらの薬は障害を治療するものではなく、症状を一時的に制御するものである。したがって薬によってより集中し仕事を完了することが出来るかもしれないが、知識を増加させたり学習的なスキルを向上させるわけではない。また、これらの薬だけで気分が良くなったり問題に対処できるわけではない。薬物治療以外に教育や他の療法を併用していくことが必要となる。

 

 

 

 

 

        表 アメリカ合衆国におけるADHD症の現状:1997年ベース

項目 統計値
ADHD症状を示す人々 子供(学童) 180- 270万人 (全体の約10%-15%)
成人 650- 900万人
リタリンを服用している人々 子供(学童) 150- 200万人
成人 約73万人

*アメリカ全体では1997年に10トン以上のリタリンが、ADHD症の子供達の治療に使われた。

薬物治療の問題 

 子どもに長期間投与した場合の安全性は確立されておらず、マウスに対して肝臓癌を引き起こすことが最近発見された。しかし、ラットではそのような現象は観察されていない。いずれにせよ、多くのADHD症の人たちがリタリンを服用しているので、早期に安全性を再確認する必要がある。

 
3)学習障害及びADHDにおける教育的・治療的援助
 学習障害やADHDについては、先の講義でも述べたように、一人一人の実態に応じた教育や治療的援助が必要となる。学習や認知の直接的問題やそれらによってもたらされる対人関係のスキルの欠如、衝動性や多動性の制御など様々な方向から総合的にアプローチする必要がある。ここではその概略をのべる。
 
(1)心理療法的支援
・精神療法
LDやADHDの人がその障害にも関わらず自分を好きになり、自分を受け入れるための手助けとなる。精神療法では患者は自分の心の戸惑いや、うろたえた気持ちを療法士に語り、自滅的な行動パターンを調べ、自分の感情を制御する改善策を学ぶ。会話を通じて、療法士は彼らに自分がどうやって変われるのかを理解させようとする。しかし、患者が症状に基づく行動をより直接的に制御したいと考える場合、より直接的な介入が必要となります。
・行動分析的方法
 ■認知行動療法(Cognitive-behaviral therapy)や社会的スキル訓練
 直接的に彼らの行動を変えるよう働きかけ、現実的な支援を行いサポートする。あるいは、患者が望ましい行為をしたときに積極的に認めたり誉めたりして新しい行動を形成する。また、社会的スキル訓練では、適切な振る舞い方を議論し、作り上げていくことを実践をさせる。例えば順番を待つこと、おもちゃを一緒に使うこと、助けを呼ぶこと、からかわれたときの対応の仕方等、またより適切に反応するために他人の顔の表情や声の調子を"読みとる"こと等
 ■親指導・支援グループ
 親に子どもへの接し方などの問題点をフィードバックし、適切な接し方を教育する。
 ■環境の構造化とセルフ・マネージメント
 以下はあくまで例である

・大きな宿題や仕事は小さく分けて、単純な内容にすること。それぞれの課題を完了する 期限を決め、完了するごとに自分に褒美をやること。

・毎日自分がすべきことをリストにすること。それぞれの課題に優先順位をつける。そし て実行スケジュールを立てる。カレンダーや毎日の計画表を使い、それに乗っ取って行 動する。
・静かなところで仕事をする。一度に一つのことをする。小休止をとる。
・覚えておくべき事を、項目が分けられるノートに付ける。
・宿題、約束、電話番号などの 異なった情報をそれぞれ分けて記帳する。そのノートを いつも身につけておく。
・自分がやるべき事を思い出すためにメモを取る。そのメモを自分の目に付きやすそうな ところ、洗面所の鏡、冷蔵庫、学校のロッカー、車のダッシュボードなどに貼っておく。
・似たような物はまとめておく。例えば、任天堂のソフトは一カ所に、カセットテープは 別の場所に。
・運動、バランスのとれた食事、そして十分な睡眠。
 
(2)教育的配慮
  ・個別の指導目標が立てられているか
・個別的な指導の場が確保されているか
・個別から小集団そして集団へと徐々に移行されているか
・課題は子どもの好みやニーズにあっているか
 (1)保護者から聞き取りを行っているか
 (2)日常の様子やニーズを把握しているか
 (3)子どもの好みよりも教師や集団の意志が優先されていないか
 (4)子どもの選択を取り入れているか
 (5)その課題の達成が本人の生活への有用性が検討されているか
・何の課題をどのような順で行うか子どもに理解させているか
 (1)その子どもの理解できる視覚的レベルで提示しているか
 (2)終了後のモニタリングが行われているか
・課題は子どもの発達レベルにあっているか
 (1)子どもの発達レベルの評価が行われているか
・課題への教示が子どもの理解しやすい形で行われているか
 (1)子どもの注意を喚起しないで指示を出していないか   
 (2)音声指示に理解できない抽象的なことばが多くないか  
 (3)音声指示が長くないか
 (4)やり方のモデルを提示したり視覚的な手がかりやサインなどを使用しているか
・課題の最初と最後は子どもができる内容になっているか
 (1)最初の問題はできていた内容になっているか
・課題の量は適切か
・課題の量(どれだけ行うのか)をわかりやすく(できれば視覚的に明示している か)
・課題ができたとき子どもにわかる形でほめたり認めてあげているか 
  ・間違った場合、しかったり、できないことを強調するような言動を行っていないか
  ・記録が取られているか
・課題分析が行われているか
・スモールステップで進められているか
・できない状態が続いても同じ指導が行われていないか
・できない場合の手がかりが系統的に与えられているか
・視覚的な手がかりやモデルが効果的につかわれているか
・教師や子どもが課題を楽しめているか
・結果を保護者にフィードバックできているか